『携帯電話』
「むぅ……何でこの携帯開かないんだ！？」
弟の通っている保育園との連絡手段の一つとして携帯電話の購入を決めた刃。
とは言え携帯電話のことなど全く分からない上、選ぶのが面倒だった刃は
店員に一番人気の機種を頼み、適当にそれを契約した。
そこまでは良かったのだが、契約した二つ折りの携帯が縦に開こうとしても、
なぜだかどうしても開かない。
どう開けばいいのかと各部を弄くりつつ刃は思案する。
と言うか、開こうと思っても開かない携帯に対して、既に刃の我慢は限界にまで達していた。
「……」
無言で顔をヒクヒク引き攣らせる刃。
「ぁ、あの、お客様。この機種はそのように縦に開くタイプではなく……」
「ふんっ！！」
店員が言い終わるや否や、刃は異常に固い携帯のフリップを躊躇いもなく、力一杯上下に開いた。
「スライドするタイプの機種なのですが……」
時既に遅し、開いた後に分かったのでは遅いのだ。
そう……それは刃が携帯を真っ二つに叩き折った直後のことだった。
「……」
「……」
二人とも無言だった。
おおよそ、普通に使っていたのでは聞きようのない乾いた効果音を上げた刃の携帯電話は、曲がってはいけない角度で曲がり、
いろんな意味で素晴らしい様を醸し出している。
刃の携帯電話は事もあろうか持ち主自身の手によって、電話としての使命を欠片も全うすることなく、
あまりにも短い電生を閉じた。
享年……１分と３２秒……
とりあえず、化けて出られないように祈っとけ。
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